はじめに
前回の「[開業届の出し方]」では、個人事業を始める際の基本的な届出について整理しました。開業届とセットで検討しておきたいのが、青色申告承認申請書です。
「青色申告はお得と聞くけれど、いつ出すの?」「開業届と一緒に出す必要がある?」「期限を過ぎたらどうなる?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
「[青色申告と白色申告の違い]」の記事で整理したように、青色申告には大きなメリットがありますが、そのためには事前の申請が必要です。特に、提出期限を過ぎると、その年は青色申告ができなくなってしまうため、注意が必要です。
本記事では、青色申告承認申請書の制度的な位置づけ、提出期限、書き方、実務上の注意点を中心に整理します。これから青色申告を検討している方、すでに事業を始めているが青色申告承認申請書をまだ出していない方は、ぜひ参考にしてください。
青色申告承認申請書とは何か
青色申告承認申請書とは、青色申告によって所得税の申告を行いたいという意思を、あらかじめ税務署に届け出るための書類です。
法律上の位置づけ
所得税法第143条に基づき、青色申告を行うためには、事前に税務署長の承認を受ける必要があります。その承認を受けるための手続きが、この青色申告承認申請書です。
正式名称は「所得税の青色申告承認申請書」です。
開業届との違い
| 項目開業届青色申告承認申請書 | ||
|---|---|---|
| 目的 | 事業開始の届出 | 青色申告の承認申請 |
| 提出期限 | 開業から1か月以内 | 年の3月15日まで(原則) |
| 期限を過ぎた場合 | 特にペナルティなし | その年は青色申告できない |
| 必須性 | 法律上は必須だが罰則なし | 青色申告をするなら必須 |
開業届と違い、期限を過ぎるとその年は青色申告ができなくなるという点が大きな特徴です。
青色申告のメリット(簡単におさらい)
「[青色申告と白色申告の違い]」の記事で詳しく解説していますが、ここでは要点のみ整理します。
主なメリット
① 青色申告特別控除(最大65万円)
- 一定の要件を満たすと、所得から最大65万円を控除できる
- 所得税・住民税・国民健康保険料の負担が減る
② 赤字の繰越控除(最長3年間)
- 事業で赤字が出た場合、翌年以降3年間繰り越して、黒字と相殺できる
- 初年度の赤字を翌年の黒字と相殺して、税負担を軽減
③ 青色事業専従者給与の必要経費算入
- 家族(配偶者や親族)への給与を経費にできる
- 白色申告の専従者控除(定額)よりも有利
④ 少額減価償却資産の特例
- 30万円未満の資産を一括で経費にできる
- 白色申告は10万円未満まで
これらのメリットを受けるためには、期限内に青色申告承認申請書を提出していることが前提となります。
メリットを受けるための要件
青色申告のメリットを受けるには、
- 青色申告承認申請書を期限内に提出
- 複式簿記で記帳(65万円控除の場合)
- 帳簿・証拠資料の保存
- e-Taxでの申告または電子帳簿保存(65万円控除の場合)
が必要です。「申請書を出すだけ」では、メリットを最大限に活用できません。
提出期限が最重要ポイント
青色申告承認申請書で最も重要なのが、提出期限です。期限を1日でも過ぎると、その年は青色申告ができなくなります。
原則的な提出期限
青色申告をしようとする年の3月15日まで
例
- 2026年分の所得を青色申告したい場合 → 2026年3月15日までに提出
- 2027年分の所得を青色申告したい場合 → 2027年3月15日までに提出
開業した年の特例
その年の1月16日以降に新たに開業した場合は、次のいずれか早い日が期限となります。
- 開業日から2か月以内
- その年の12月31日(実質的にその年の年末まで)
具体例
| 開業日提出期限 | |
| 2026年1月10日 | 2026年3月15日(原則) |
| 2026年2月1日 | 2026年4月1日(開業から2か月) |
| 2026年6月1日 | 2026年7月31日(開業から2か月) |
| 2026年11月1日 | 2026年12月31日(年末まで) |
期限を過ぎた場合
期限を1日でも過ぎると、その年は白色申告しか選択できません。翌年分から改めて青色申告を行うことになります。
例
- 2026年3月16日に提出した場合 → 2026年分は白色申告、2027年分から青色申告
この点は、開業届との大きな違いです。開業届は期限を過ぎても大きな問題はありませんが、青色申告承認申請書は期限厳守です。
期限を過ぎてしまった場合の対応
すでに期限を過ぎてしまった場合でも、諦める必要はありません。
今年は白色申告で、来年から青色申告に
- 今すぐ青色申告承認申請書を提出
- 今年(2026年)は白色申告
- 来年(2027年)から青色申告
期限を過ぎてしまっても、早めに提出しておけば、翌年からは青色申告のメリットを受けられます。
開業届との関係
よくある質問が、「開業届と青色申告承認申請書はセットなのか」という点です。
制度上の関係
原則
- 青色申告承認申請書は単独でも提出可能
- 法律上、開業届の提出は青色申告承認申請書の要件ではない
実務上の扱い
- 青色申告承認申請書は「事業所得として申告する前提」で使われるため、開業届とセットで提出するケースがほとんど
- セットで提出しておくと管理が楽
なぜ同時提出が推奨されるのか
① 手間が一度で済む
- 2回税務署に行く必要がない
- 郵送の場合も、一度に送れる
② 期限を逃さない
- 開業時にセットで出しておけば、期限を逃すリスクが減る
③ 税務署での手続きがスムーズ
- 開業届と一緒に出すと、税務署でも管理しやすい
④ 記録として明確
- いつから事業を始め、いつから青色申告を選択したかが明確
提出する書類
開業時に提出する書類(推奨)
- 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)
- 青色申告承認申請書
青色事業専従者給与を支払う場合(追加) 3. 青色事業専従者給与に関する届出書
家族に給与を支払う予定がある場合は、この3つをセットで提出します。
提出先と提出方法
提出先
納税地を管轄する税務署
開業届と同じです。通常は、自宅住所を管轄する税務署に提出します。
提出方法
提出方法は、開業届と同様に3つあります。
① 税務署窓口で提出
メリット
- その場で不備を確認してもらえる
- 控えに受付印をもらえる
- 確実に提出できる
手順
- 青色申告承認申請書を2部用意(提出用+控え用)
- 税務署の窓口に提出
- 控えに受付印を押してもらい、受け取る
必要なもの
- 青色申告承認申請書2部
- マイナンバーカードまたは身分証明書
- 印鑑(念のため)
② 郵送で提出
メリット
- 税務署に行かなくてよい
- 開業届と一緒に送れる
手順
- 青色申告承認申請書を2部用意
- 控え用と返信用封筒を同封
- 管轄税務署に郵送
必要なもの
- 青色申告承認申請書2部
- 返信用封筒(切手を貼付)
- マイナンバーの写し(初回のみ)
注意点
- 簡易書留や特定記録郵便で送ると確実
- 消印日が提出日となるため、期限ギリギリの場合は注意
③ e-Taxで提出
メリット
- 自宅から手続きが完結
- 青色申告65万円控除の要件の一つを満たせる
- 紙の書類が不要
手順
- e-Taxの利用開始手続き
- マイナンバーカードまたはID・パスワードを準備
- e-Taxソフトまたは国税庁の確定申告書等作成コーナーから提出
必要なもの
- マイナンバーカード+ICカードリーダー、またはスマートフォン
- またはID・パスワード(税務署で発行)
注意点
- 初回は準備に時間がかかる
- 65万円控除を狙うなら、早めにe-Taxに慣れておくのも一つの方法
記載内容と書き方のポイント
青色申告承認申請書の記載項目は多くありませんが、いくつか注意点があります。
主な記載項目
① 氏名・住所・マイナンバー
- 本人の氏名、住所、マイナンバーを記載
- 押印は不要(令和3年以降)
② 納税地
- 通常は自宅住所
- 開業届と同じ住所を記載
③ 職業・屋号
- 開業届と同じ内容を記載
- 屋号がない場合は空欄でOK
④ 事業開始年月日
- 実際に事業を始めた日
- 開業届と同じ日付を記載
⑤ 所得の種類
- 「事業所得」にチェック
- 不動産所得がある場合は「不動産所得」も
⑥ いままでに青色申告承認の取消しを受けたこと又は取りやめをしたことの有無
- 初めての場合は「無」
⑦ 本年1月16日以後新たに業務を開始した場合、その開始した年月日
- その年の1月16日以降に開業した場合のみ記載
- 開業日を記入
⑧ 相続による事業承継の有無
- 通常は「無」
⑨ 簿記方式
- 複式簿記 or 簡易簿記
- 65万円控除を狙う場合:複式簿記
- 10万円控除でもよい場合:簡易簿記
⑩ 備付帳簿名
- 使用する帳簿にチェック
- 迷ったら主要なものにチェック
簿記方式の選択
複式簿記を選ぶ場合(推奨)
- 青色申告特別控除65万円(または55万円)を受けられる
- 会計ソフトを使えば、複式簿記も難しくない
- 将来を見据えて複式簿記を選んでおくのが無難
簡易簿記を選ぶ場合
- 青色申告特別控除は10万円まで
- 複式簿記ほどの厳密さは求められない
- ただし、会計ソフトを使うなら複式簿記の方が結局は楽
迷ったら複式簿記 後から変更もできますが、最初から複式簿記を選んでおくことをお勧めします。
備付帳簿名
具体的な帳簿名をすべて正確に書く必要はありません。一般的な帳簿にチェックを入れておけばOKです。
複式簿記の場合(主要なもの)
- 総勘定元帳
- 仕訳帳
- 現金出納帳
- 売掛帳
- 買掛帳
- 経費帳
よく分からない場合
- 会計ソフトを使う予定なら、上記の主要なものにチェック
- 実際に使わない帳簿があっても、問題にはならない
記載例(具体的なケース)
ケース:2026年2月1日に開業したWebデザイナー
- 事業開始年月日:2026年2月1日
- 所得の種類:事業所得
- 本年1月16日以後新たに業務を開始した場合:2026年2月1日
- 簿記方式:複式簿記
- 備付帳簿名:総勘定元帳、仕訳帳、現金出納帳、売掛帳、経費帳
このように記載すればOKです。
よくある誤解と注意点
誤解① 「出せば必ず青色申告できる」
正しい理解
- 期限内に提出することが前提
- 提出しても、実際に複式簿記で記帳していないと、青色申告は認められない
- 帳簿が不十分な場合、税務調査で否認されるリスクがある
誤解② 「青色申告承認申請書を出せば、帳簿は後で考えればいい」
正しい理解
- 青色申告は「書類を出すだけ」で終わりではない
- 日々の記帳と証憑(レシート・請求書)の保存がセット
- 記帳をしていないと、青色申告のメリットを受けられない
誤解③ 「複式簿記は難しいから無理」
正しい理解
- 会計ソフトを使えば、複式簿記の知識がなくても大丈夫
- 収入・支出を入力するだけで、自動的に複式簿記の形式になる
- 最初は難しく感じても、慣れれば問題ない
誤解④ 「一度青色申告を選んだら、ずっと続けないといけない」
正しい理解
- 青色申告を取りやめることも可能
- 「青色申告の取りやめ届出書」を提出すれば、白色申告に戻れる
- ただし、メリットを考えると、続ける方が有利なことが多い
こんな人は早めに提出を
次のような方は、青色申告承認申請書を早めに提出することをお勧めします。
① 開業したばかりの人
理由
- 開業時にセットで提出しておけば、期限を逃すリスクがない
- 初年度から青色申告のメリットを受けられる
② 今年から本格的に事業を始めた人
理由
- 売上が増えてきたら、青色申告特別控除のメリットが大きい
- 期限を過ぎると、その年は白色申告になってしまう
③ 将来的に売上・経費が増えそうな人
理由
- 事業が軌道に乗る前に、青色申告の準備をしておく
- 赤字の繰越控除も、初年度から適用される
④ 家族に給与を払いたい人
理由
- 青色事業専従者給与は、青色申告でないと使えない
- 配偶者や親族への給与を経費にできるメリットは大きい
⑤ 会計ソフトを使う予定の人
理由
- 会計ソフトを使うなら、複式簿記も簡単
- 青色申告のメリットを最大限活用できる
青色申告承認申請書は、早く出して困ることはほとんどありません。
※ ただし、失業給付の受給中や扶養の判定が関係する場合は、開業届と同様に慎重に判断してください。
迷ったら、早めに提出しておくことをお勧めします。
青色申告承認申請書を出した後にすべきこと
青色申告承認申請書を提出したら、次は実際に記帳を始める必要があります。
① 会計ソフトを導入する
おすすめの会計ソフト
- freee
- マネーフォワード クラウド確定申告
- やよいの青色申告オンライン
複式簿記での記帳は、会計ソフトを使うことをほぼ前提とします。
② 帳簿のつけ方を学ぶ
基本的な流れ
- 収入があったら記帳
- 経費を支払ったら記帳
- 月末に残高を確認
次回以降の記事で、帳簿のつけ方を詳しく解説します。
③ 領収書・証拠資料を保存する
保存すべきもの
- 領収書・レシート
- 請求書
- 納品書
- 契約書
- 通帳のコピー・クレジットカード明細
「[必要経費とは何か]」の記事で整理したように、証拠資料の保存は必須です。
④ 定期的に記帳する
記帳の頻度
- 毎日:理想的
- 週に1回:現実的
- 月に1回:最低限
溜め込むと大変なので、定期的に記帳する習慣をつけましょう。
これまでの記事とのつながり
本記事は、これまでのシリーズの知識を前提としています。
| 記事内容本記事との関連 | ||
| [青色申告と白色申告の違い] | 申告方法の選択 | 青色申告のメリット・デメリット |
| [開業届の出し方] | 開業届の提出 | 開業届とセットで提出 |
| [必要経費とは何か] | 経費の考え方 | 帳簿・証拠資料の重要性 |
シリーズの流れ
- 所得と経費の基本を理解
- 申告方法を選択(青色 or 白色)
- 開業届を提出
- 本記事:青色申告承認申請書を提出
- 次回以降:帳簿のつけ方、会計ソフトの使い方
この順番で読むことで、事業開始から青色申告まで、体系的に理解できます。
おわりに
青色申告承認申請書は、青色申告のスタートラインとなる重要な書類です。
覚えておくべき3つのポイント
① 期限を守ること
- 原則:3月15日まで
- 開業した年:開業から2か月以内
- 1日でも遅れると、その年は青色申告できない
② 開業届とセットで管理すること
- 同時提出が推奨される
- 手間が一度で済み、期限も逃さない
③ 帳簿付けを前提に考えること
- 青色申告は「書類を出すだけ」ではない
- 日々の記帳と証拠資料の保存が必須
- 会計ソフトを使えば、複式簿記も難しくない
この3点を押さえておけば、過度に難しく考える必要はありません。
迷ったら早めに提出を
青色申告承認申請書は、早く出して困ることはほとんどありません。
- 開業したばかりの方:開業届とセットで提出
- すでに事業を始めている方:今すぐ提出(翌年から青色申告)
- 迷っている方:とりあえず提出しておく(後で取りやめも可能)
期限を逃すと1年待つことになるため、迷ったら早めに提出することをお勧めします。
次回は、**帳簿のつけ方の基本(単式簿記と複式簿記)**について、会計ソフトの使い方も含めて解説していきます。
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